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『ホテルバルチック』化粧室の怪。
そのホテルはイタリアというのに、なんだか日本旅館のような雰囲気を持っていた。それは地名にテルメ(イタリア語で温泉)とついているくらいだから、まさに日本で言う湯治場みたいな温泉施設?ホテルだった。後から知ったのだが、ダイエットの為に長期滞在する人が利用したりもするようだ。私はキョロキョロと卓球台を探してしまった。
部屋は狭いが窓を開ければアドリア海が目の前に広がる素晴らしいロケーション。でもその時は既に真っ暗で何も見えなかったけど、時々静かな波の音が聞こえてくるのが、とても心地よかった。
ただその後すぐに問題発生。ホッと一息入れてじゃぁ夕食でも食べに行こうと、化粧室で身だしなみを整えようと思ったら、化粧室の扉が開かない!入れない!勝手にカギが?!
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湯治場と称した通り、近代的なホテルではないから扉のカギはコインでも開きそうな簡素な作りになっている。ユーロのコインでなんとかこじ開けようとすると、今迄に何人も
同じことをした形跡がハッキリと残っていた。うーんガリガリになっているからうまくいかない。 |
フロントに電話して、「化粧室の扉が開かな・・。」と言ったとたんに「Vengo io!」(私が行くわよ!)きっとよくあるハプニングなのだろう。
颯爽と現われた女性オーナーの右手には、お好み焼きを食べる時に使うような小さな金属のヘラが握られていた。一発でカギは開いた。ヘラを見せながら「もう大丈夫!」と晴れやかに笑うと部屋を出ていった。その時はふたりで大笑いしたものの、私にはこの後笑えない出来事が待っていた。
『ホテルバルチック』化粧室の怪は続く!?
夕食を終え、少しのんびりしてからシャワーを浴びた。どうせ1泊だからと、へヤードライヤーはボローニャに置いてきた。運良く熱風の出るドライヤーがあったので、「よしよし」と思いながら髪を乾かす。私がベッドに戻った時には、彼女は既に軽い寝息を立てていた。
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明日は晴れるといいな。果てしなく広がるアドリア海と青い空を思い描きながら眠りについた。
『グゥォーン、グゥォーン、グゥォーン・・・』1、2時間たっただろうか?すごい音で目が覚めた。何が起こったんだろう!半分寝ぼけているから頭が回らない。ただその音は化粧室から聞こえてくる。
犯人はドライヤーだった。さっき使った時は何ともなかったのに、といっても蛇腹のホース部分に、茶色のガムテープがべったり貼ってあるのが気にはなっていた。
シーンと静まりかえるこんな夜中に鳴り響く『グゥォーン、グゥォーン、グゥォーン・・・』という音に少しパニック状態に陥りながら、必死でその音を静めようとひとり奮闘した。
「要するに、熱風の出てくるドライヤーの口がパカッとここに納まればいいのよね!」理屈はわかるのだが納まらない。熱風の勢いとドライヤーの重さですぐ外れてしまう。使い込んでいるため、口の部分が磨耗しているのが原因みたいだ。
やっぱり壊れてる?!焦れば焦る程バランスが取れずうまくいかない。さっきまでしっかり納まっていたことの方が奇跡に思える。このまま朝まで・・・。泣きたい気持ちで一杯になった時、あっ!手を離しても「だ、い、じ、ょ、う、ぶ!?」・・・ふぅ〜。
1時間位格闘しただろうか。もう2度とあの『グゥォーン』が聞こえてこないことを願いつつベッドにもぐり込んだ。頭の中をあの『グゥォーン、グゥォーン、グゥォーン・・・』がこだまして、ほとんど眠れなかった。
寝不足気味で起きる。彼女が化粧室に入る前に「ドライヤーには気を付けて!」と昨日のあの悪夢のことを伝えなくっちゃ!
その時、「そう言えば、昨日随分長い間ドライヤーかけてたよねぇ。」良く眠れたというさわやかな顔つきで、私よりも化粧室に近いベッドで寝ていた彼女がぽつりと言った。
私にとって『ホテルバルチック』は決して忘れられないホテルのひとつとなった。 |
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